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新型コロナウイルス感染症流行の解決策

2021.1.17
循環器内科 大木貴博

私は循環器内科医師で、感染症は専門ではありませんが、循環器、心臓病、心不全といった病気は全身性の病気であり、感染症治療も並行して行うことはしばしばあります。人工呼吸器を装着して重症患者を診ることは日常的ですし、ECMOのような人工肺、体外循環などを取り扱うことにも慣れています。また私は若い頃に救急医療に携わっていたこともあり、新型コロナウイルス感染症に関してはそれなりの私見を持っています。これまでも何回か書き込ませてもらいましたが、今回もこの場を借りて述べさせて頂きます。

【新型コロナウイルス感染流行1年を振り返り】

令和2年1月に日本で初めて新型コロナウイルス感染が見つかってから1年になります。現在は3回目の感染拡大期の中にあり、2回目の緊急事態宣言が発出されています。この1年を振り返って、私達人間社会は新型コロナウイルスに翻弄されるばかりで、莫大な医学的研究結果が報告されましたし、生活様式について様々な方策がとられましたし、また政治的にも経済的にもあらゆる施策が講じられてきましたが、新型コロナウイルス感染症の流行は1年では終息せず、社会は今なお混乱するばかりです。
終息しなかった原因は、私達が取ってきた対処方法に不備があるのか、あるいは対処法は正しくても感染症の勢いの方が強いためにやむを得ないことだったのかのどちらか、あるいは両方です。

【感染経路と予防対策】

新型コロナウイルスが流行している中、インフルエンザが流行しなかったのは、手洗い、マスクによるしっかりした予防を行ったのが理由という説がありますが、それが正しいとすると、新型コロナウイルスは手洗い、マスクなどの標準的な予防法では感染を防げないほど感染力が強いということになります。手洗いしているから、マスクをしているから大丈夫とは全く言えないのです。手洗い、マスクの標準的予防法を行っていても、ティッシュで鼻をかんだ直後についつい周囲のものを触ってしまったり、大きなくしゃみがマスクを突き抜けてしまったり、どうしても何らかの感染源となり得る行為はしてしまうものです。それがたった独りの部屋の中で行われているなら、たとえウイルスに感染していたって人にうつす心配はありません。テーブルの上に散らばったウイルスは数十時間で不活化しますし、体内にいるウイルスも個人の免疫力により何日かで死滅するはずです。ところが家の外に一歩出ると、ティッシュで鼻をかんだ手でつり革を握ってしまったりしますし、ましてや複数人でいれば、必ず会話を交わし、唾液を飛ばして笑い、マスクからはみ出た鼻から鼻汁が飛び出すこともあるでしょう。更に複数人で食事をすれば飛び交う唾液、舞い散るウイルス、感染者がいれば、感染力の強いウイルスがいれば、うつってしまう確率は高くなってしまいます。要するに感染した人が家の外に出かければ、必ずや人にうつしてしまう行為はしてしまうものです。あるいは知らず知らずのうちにうつされてしまっています。感染拡大を予防するには、家の外に出ず、ステイホームで人と人が接触しないことが最善の方法です。

【ウイルスの変異とワクチンの効能】

コロナウイルスはいわゆる風邪を引き起こすウイルスの一つですが、非常に突然変異しやすいウイルスであるため、一種類のコロナウイルスに対するワクチンを作っても、人々に接種した頃には違う形に変異したウイルスが流行していて、せっかく作ったワクチンが無意味になったり効果が低くなったりしてしまうのではないか、と言うことは昔から言われていて、そのため風邪に対するワクチンは作られてきませんでした。そもそも旧型のコロナウイルスが引き起こす風邪という病気は死んでしまうようなことはほとんどなく、こじらせて肺炎になるとか、もともと持病があって抵抗力が低い人でないと重症化しないために、ワクチンを作ろうとする努力に価値は見出されなかったものと思われます。ところが旧型より凶暴で、こじれて肺炎になることが多く、抵抗力が低い人では死亡することさえ多い新型コロナウイルスでは、ワクチンの合成は是非期待されるところとなっています。因みに、昨今の日本において、比較的高齢者に多い急性心筋梗塞という病気の院内死亡率は約5%です。それに比して新型コロナウイルス感染症の死亡率は、60歳代で約5%、70歳代で約15%、80歳以上では約30%です。心筋梗塞より遙かに危険な疾患ということになります。
これまで新型コロナウイルスのワクチンは世界に於いて数種類作られましたが、それぞれの効果は微妙に異なり、このワクチンはその変異型の予防率は高いが、あの変異型の予防率は低い、と言うようなことがあると考えられます。ウイルスの小さな変異は毎日世界中で起こっています。日本国内において世界で最も凶暴な形に変異してしまう可能性もあるのです。変異するとき感染力が低くなったり、弱毒化したりする変異も起きていると思われますが、感染力が強い集団の方が優勢を保って蔓延すると考えられますので、市中の新型コロナウイルスが全部旧型コロナウイルス並の弱さとなってしまうという夢の様なことは残念ながら生じないと思われます。その観点から、新型コロナウイルス感染症が蔓延している時にインフルエンザが流行しなかったのは、インフルエンザウイルスより、新型コロナウイルスの感染力の方が強いということが言えると思います。新型コロナに人間界を席巻されてしまったインフルエンザは、新型コロナウイルスが感染できない宿主の間に広まることになるでしょう。
いずれにせよ、できるだけ早く、確実に有効なワクチンの登場が望まれます。

【新型コロナウイルス感染症による医療崩壊】

新型コロナウイルス感染症は、感染していても無症状のことがあるため誰が感染しているかわかりにくいこと、特に高齢者では重症化して死亡することが多いこと、決定的な治療薬がないこと、更に流行の長期化によってウイルスが変異を起こす機会を増やしてしまったことなどにより、過去に見ないほど巨大な世界的パンデミックを生じています。患者の急増は医療資源の需要を急上昇させ、医療資源の供給量を超えてしまいました。すなわち医療崩壊(医療資源の需要>供給)を来してしまいました。今や感染してしまった患者さん達が医療機関を受診できず、治療も受けられず、自宅で孤独死してしまう例さえ多発しており、とても日本の出来事とは思えないようなことが始まっています。自宅でお亡くなりになると異状死という取り扱いになり警察が介入することが多いですが、今後司法解剖が間に合わず、ご遺体の行き所に困るというような最悪の事態に発展しかねません。恐るべき光景が目の前にやってきそうですが、医療資源供給の拡充も遅々として進みません。
今まさに街を、日本全体を、大火が襲っている状態です。病床を、人工呼吸器を、PCRの器械を増やすだけでは意味がありません。大火を前に消防車だけを増産しても、それを操作する人がいなければ絵に描いた餅になってしまいます。一刻も早く、焼け野原になる前に鎮火させ、社会崩壊を防がねばなりません。

【経済的混乱と社会的混乱】

手元に確実に有効で有用なワクチンがなく、決定的な治療薬もない状態で、すなわち的確な医療手段が無い状態で新型コロナウイルスと戦うのは非常に不利です。逃げるが勝ち。兎に角、感染しないようにステイホームすることが唯一の防御手段となりますが、そのために街を完全にロックダウンするということは、経済活動を強く抑制するということになります。感染防御を高めれば高めるほど、経済的損失は大きくなります。そうかと言ってステイホームと言いながらGo Toトラベル、Go Toイートなど矛盾することを言ったり、中途半端な緊急事態宣言を発出したりすることは、社会的混乱に拍車をかけてしまいます。大火の中、自分は木造ではなく鉄筋コンクリートの家だから燃えにくい、感染しにくい、あるいは感染したって全焼することはないと思っている若者達にもステイホームしてもらわなければ人から人への感染の機会は減りません。人々の社会生活を守りながら同時に人と人の接触を避けることは困難を極めるのです。

【ステイ&Go Toの時限式緊急事態宣言】

しかし、一つ解決策になるかも知れない方法があります。
緊急事態宣言を発出してステイホームを呼びかけ、1週間でそれを解除し、3週間ほど期間をおいて、また1週間緊急事態宣言を出す、そのようなことを繰り返すのです。暴走してしまった車にポンピングブレーキをかけるがごときです。ステイホーム解除のGo To期間中、経済活動は完全に自由とすることにより、経済的損失を最小限に食い止められますし、行政からの補助も1週間分だけで良いので、かなり効率化が図られます。それによって先の見えない人々の不安、不満も解消されます。最初のうちはGo To期間は短くても、徐々にGo To期間を延ばすことも可能になると推察されます。ステイホーム期間は長ければ長いほど効果は上がりますが、新型コロナウイルス感染者が、他の人にうつしてしまう期間はおよそ6日間だと言われていますので、それが正しいとすれば、ステイホーム期間は1週間でも効果がでると期待されます。
但し、ステイホーム中には全ての事業を休業とするくらいの強固な抑制が必要です。会社も商店も学校も、全て休業とし、食料品店、農林、警察、消防、病院などの必須な業務だけ残すくらいの強いものであれば、期間中の実行再生産数はかなり低下します。それほど強固な抑制でも、1週間だけと期限が決まっていれば、国民も我慢できるのではないでしょうか。
これまでも感染者は病院に入院するか、独りでステイホームしてきましたが、それでも感染拡大は止まりませんでした。それは無症状の感染者が市中に出てしまっていたことが主な原因です。感染がここまで拡大してしまい、感染者の発見と隔離という原則が全くできなくなってしまった今、国民全てが感染者であると仮定したくらいの断固たる措置が必要と思います。

【コロナ禍における注意点】

感染症パンデミックは人々の生活に大きな影響、特に甚大な負の作用を与えます。新型コロナウイルス感染症による直接的死亡だけでなく、コロナ周辺死をも増加させています。基礎心疾患を持っている場合、重症化の懸念があるため自己管理的にステイホームされている方を多く見受けられますが、そうした基礎心疾患を持っている方こそ、運動不足であったり食生活の乱れが生じたりしないように心がけなければなりません。病院に薬をもらいにいくことも控えてしまうようなことが無いよう、ご注意下さい。
また、最近はどこもかしこも、消毒、殺菌などされて非常に清潔を心がけられています。ところが清潔は免疫の敵となることもあります。清潔になったからこそ増加してきたアレルギー性の疾患、アトピー等の皮膚炎が、今後急増してくることが懸念されます。特に幼少期から清潔に慣れていると将来アレルギー性疾患を発症することが心配されます。適度な不潔度を保つことはとても難しいことですが、屋外に出ること、運動すること、自然に触れることは健康にとって最重要です。そのためにも感染コントロールに国民の知恵と努力が必要とされています。

今は先行きが全く見えず疲弊してしまいますし、不安にもなりますが、もしかしたら感染症パンデミックはヒトが進化する上で必要なことなのかも知れません。将来の子供達に何かしらの必要なことを残しているのかも知れません。冷静になり、むやみに怯えず、でも恐れながらこの難局を乗り切って行きましょう。