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『新型コロナウイルス感染症による医療崩壊とは』

2020.4.25
循環器内科 大木貴博

【医療崩壊とは】

医療崩壊とは、必要とされる医療資源が、供給できる医療資源よりも多くなること、と言えます(医療資源の需要>医療資源の供給)。医療資源とは、医師、看護師、薬剤師、技師など医療従事者と呼ばれる人の数と能力、および備えてある薬や医療機器の量と種類のことです。地域にたった一つの医療機関しかなければ、その医療機関そのものが医療資源そのものです。たとえば町に手術のできないクリニックが1件だけあって、そこに手術が必要な患者さんが発生した場合、必要な医療資源は供給できる医療資源より大きいので、その場合において、その町は医療が崩壊していると言えます。医療崩壊は医療資源の需要が増大すること、あるいは医療資源の供給が小さくなることで生じます。実は東京都以外では医療資源がとても小さく、もともと医療が崩壊している地域は日本中にあります。そのような地域では隣町に行く、遠くまで搬送してもらう、遠隔装置を使うなどして、なんとか医療の不足をカバーしようと努力されて来ました。今回新型コロナウイルス感染症により、これまでかろうじて医療崩壊を避けて来た地域ばかりでなく、これまで豊富な医療資源を有していた大都市圏でも医療崩壊が生じています。それは医療資源の需要が一気に爆発的に大きくなってしまったからです。

【新型コロナウイルス感染症における医療崩壊】

患者数の急速な増加は医療資源需要の急激な増大を来しますが、医療資源供給の増強が追いつかないと一挙に医療崩壊を生じます。第一に、新型コロナウイルス感染症患者さんの診療そのものが通常のように行えなくなっています。診療とは、迅速な診断と的確な治療のことですが、人手不足や設備不足のため迅速な診断も的確な治療も行われていない感染者が相当数存在します。治癒していない感染者は隔離されていないと更に新たな感染者を生みます。そのため更に医療資源需要が増大するという、悪循環が生じています。また医療資源供給も、院内感染予防目的に診療を縮小させざるを得ない医療機関も多く、どんどん脆弱化しています。つまり医療資源需要の急速な増加と医療資源供給の急速な縮小は加速度的で爆発的な医療崩壊の進行を招いています。特に医療資源供給の減少は顕著であり、感染患者で既に満床で手一杯となっているばかりでなく、感染症が疑われる患者は診ないという医療機関も増えています。中でも救急医療の崩壊は深刻であり、発熱や呼吸困難で救急車を要請しても、受け入れてくれる病院が少なく、東京都では数十件の受け入れ交渉を要した例も少なくありません。市川市においても搬送先病院が決まらず、路上で何時間も待機してしまったということが生じています。新型コロナウイルス感染症であるとは限らないのに、疑われる症状が少しでもあると病院は受け入れを拒否してしまう可能性があり、心不全、心筋梗塞、脳卒中などの診療の迅速さが命を左右する疾患の搬送が遅れてしまう恐れがあります。新型コロナウイルス感染症でお亡くなりになる方が急激に増加している一方、新型コロナウイルス感染症ではないのに、新型コロナ関連死、あるいは新型コロナ周辺死とも言えるような死亡例が既に増加しています。

【医療崩壊を防ぐために】

急性心筋梗塞に対する緊急心臓カテーテル治療を行える施設は市内に2つしかありません。常時循環器専門医が待機している病院は当院のみであり、治療を行う技術を有している医師は4名しかいません。すなわち市川市内に急性心筋梗塞のような重症急性循環器疾患の診療に当たることができる医師は数人しかいないため、その医師達が感染すると循環器救急における医療資源供給がなくなってしまいます。それでも当科では救急隊からの情報を、直接ホットラインを用いて詳細に得て、慎重な情報収集により、従来通り24時間×365日、常時循環器疾患の積極的受け入れを行っています。医療崩壊を防ぐために、通常とは異なる診療体制を取っていることを、何卒ご理解とご協力のほどお願い申し上げます。